大切なのはブレーキ

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すみません。めっさ長文です。
小難しい上に長いです。しかも鉄分ばかりが豊富です。
この手の話に興味のない方は、適当にスルー推奨です。

なにか色々たまっているんじゃないかと思われた方、きっと鋭いです。

     * * *

昔、偉い人が言いました。
「ブレーキのない機関車ほど怖いものはない」と。
組織のトップが機関車役なら、ブレーキ役となる人がいるかどうかが、その後の運命を大きく左右すると言えましょう。
物事が調子よく進んでいる時に、勢いを削ぐようなことを言う人は、得てして周囲から嫌がられるものです。
この時、この後に地獄の入り口が待ち構えていようとは、誰も信じないし、認めたくないものなのです。

ブレーキ役が居る組織は幸いです。
後戻りができなくなる前に、大惨事を回避することができるのですから。

     * * *

最近、駅のホームからの転落を防ぐための装置…ホームドアの設置が進んでいます。
当初は、高速列車が通過する新幹線や、無人運転を前提とする新交通システムなど、ごく限られた場所での設置でしたが、普通鉄道が都市部でもワンマン運行をするようになってから急速に普及が進んできました。
最初の頃こそは、職員の人数を減らすための合理化の一環としての要素が強かったのですが、ホームからの転落事故対策への切り札として、乗降客の多い駅での設置も本格化してきました。

ホームからの転落事故は、今に始まった話ではありません。
目の不自由な人がホームの端に気付かずに落ちたり、混雑の激しい場所から押された人がホームの端から落ちたり…その度に、点字ブロックを整備したり、ホームを拡張したり、バイパスルートを整備したり等の対応を繰り返して来ました。
それでも、転落事故を撲滅することはできません。

悲しいかな、人間というものは安全だと認識すると注意力が散漫する習性があるようです。
猛ダッシュで混雑するホームを駆け抜ける人、スマートフォン片手にホーム端を歩く人、酒で悪酔いしてホームから身を乗り出す人…。
いよいよ鉄道会社の責任ではないようにも思うのですが、高速列車が通過する線路際に無造作に近づける状況を温存していることもまた事実です。

点字ブロックも万能ではありませんし、ベビーカーや車椅子の操作ミスだって有り得ます。
幼い子どもが走り回っていることも珍しくありませんし、おとなだって押されて転ぶこともありましょう。
やはり、安全な場所と危険な場所を明確に隔てる物が必要なことは明白です。
それでホームドアを全駅に設置したいところなのですが、これがなかなか難しい。
設計段階からホームドアを設置している鉄道であれば、最初から織り込み済みということもあって問題ないのですが、既存の鉄道となるといくつもの問題点が浮上してくるのです。

まずお金の問題はスルーという方向で。
最近はアベノミクスでマスコミ等が盛り上がっていますが、「雰囲気は良くなったけど財布の中身は一向に増えない」というのが庶民感覚なのではないでしょうか。
在るところには有るのでしょうけど、必要な場所には無いのが世の常。
億単位のお金をポンと出せるような会社、そうそうないですよ?
ここはひとつバーンと公的支援を期待したいところですが、来年度は消費税アップと引き換えに空前の大盤振る舞い予算が予定されており、「打ち出の小槌」を期待すると後が怖いだろうなと危惧している小市民の一人です。

次に車両の設計上の問題。
今でこそ減りましたが、ドアの数が違う車両が混用されているのはよくある話。
仮にドアの数が同じであっても、個々の設計で位置がズレていることも多々あります。
最近、近鉄奈良線と阪神電車が相互直通運転を開始しましたが、21m級4ドア車と19m級3ドア車をマッチングさせる妙案があれば、どなたかご教示願いたいものです。

別に双方が意地の張り合いをやっている訳ではありません。
片や近鉄は2府3県に及ぶ広大な標準軌路線網を統一仕様で運用しておりますし、片や阪神電鉄は神戸高速鉄道を介して山陽電鉄や阪急電鉄と共通仕様の協定を結んでいますから、区間を定めて双方の車両を共用するのが一番合理的なのです。
ならば間を取って、最近関東私鉄で絶賛大流行中の汎用型20m級4ドア車に一斉置き換えしてみるとか。
大好評につき、グループでまとめて買うとお得です。
でも資金の潤沢な東京通勤圏ならともかく、そんなお金がどこにありましょうか?

そして3つ目がブレーキのお話です。

     * * *

はて、なぜここでブレーキの話が…と首を傾げるのが一般的な反応かと思われます。
職場で複数台の自動車を共用している経験がある方であればイメージがつくかと思いますが、同じメーカーの同じ型の自動車であっても、一台一台独特の癖があるものです。
同じ加減でブレーキペダルを踏んでみたら、利きすぎてガツンといったり、利きが甘くて冷やりとする…なんて具合です。
鉄道車両もまた同じで、しかも複数の車両を繫いで走る訳ですから、単独で走る自動車以上の大変さがあります。

整備状態の悪かった国鉄末期の頃には、それは賑やかなことになっていまして、同じ系列の車両を同じ順序で繫いでいるにも関わらず、ある編成はブレーキが利きすぎるし、ある編成はブレーキが甘いし、ある編成は日によって利いたり甘かったり気分次第だったなんて話も聞きます。
そんな車両を使って10秒単位の運行をしていた訳ですから、乗車位置をメートル単位でズレるなんて日常茶飯事でした。
これでは、とてもじゃないけどホームドアなんて使えません。

ホームドアの導入には、ATC(自動列車制御装置)やTASC(定位置停止支援装置)の導入が重要です。
全ての駅でタイムロスなしにぴったり定位置に「100%完璧に」停める芸当を持つ運転士を大量に確保出来れば可能かもしれませんが、人間のやることに「100%」を要求すること自体がそもそも無茶な話なのです。
完璧を要求された結果、心身ボロボロになって倒れていく人が年々増加しております。
精神疾患は社会によって大量生産されていると言われる所以です。
決められた場所で決められた通りの動きを繰り返すというのは、むしろ人間より機械の方が得意な分野です。
ただし、これもあくまでもブレーキの性能が一定の基準で統一されていればの話です。

ATS(自動列車停止装置)の導入こそ早かった国鉄ですが、速度照査機能は車種が完全に統一されていた新幹線や一部の通勤路線にATCを導入するのみに限られていました。
予算の都合もありましょうが、列車ごとのブレーキ性能が違いすぎて適切なブレーキ信号を指示することができなかったことも大きいでしょう。
この問題は、個々の列車に搭載されたコンピュータで速度パターンを計算し、これをもとに速度照査をかけるATS-Pが開発されることでようやくクリアしました。
しかし予算の都合もあり、ATS-Pの導入がなかなか進まない中で発生したのが2005年に福知山線尼崎~塚口間で発生した快速電車脱線事故です。
もしATS-Pの導入が間に合っていれば未然に防げたであろう事故だけに、悔しい思いをされた方は少なくないはずです。

ホームドアを設置するにあたっては、実は鉄道車両の運行そのものが均一化されていることが保証されていることが前提なのです。
同じ車種で揃えやすい新幹線や通勤路線等を除けば、これは大変に難しいことです。
ただドアさえ付ければ済む話なんじゃないかと思われている方が多いと思うのですが、このように克服すべき課題は山積みなのです。
10秒単位で定位置に止まるのが当たり前…というのは、あくまでも日本国内でのお話です。
世界的には、これは奇跡にも等しい技術力なのです。
「とにかく動ける車両」「とにかく通れる線路」を確保することすら困窮している国が、
この世界にはまだまだたくさんあることを忘れてはなりません。

     * * *

こんな難題に、奇抜な発想でアプローチする試みが続いています。
ひとつは、ホームの安全柵そのものがフレキシブルに移動して、必要な場所だけ開口するというもの。
その名もズバリ「どこでも柵」。
https://www.youtube.com/watch?v=F58D6lzYiVY

もうひとつが、シャッターよろしく安全ワイヤーが上下するもの。
上下方向なので、ドアの位置に関係なく開け閉めできるのが特徴です。
https://www.youtube.com/watch?v=osg3jbFYZxA

それぞれに一長一短ありますが、固定概念に囚われない発想を具現化することこそが素晴らしい訳であり、このことこそが評価されるべきだと思います。
試作機があってこそ、初めて実用化への道が拓けるのですから。
こういうのを見ると、今の社会の底力のようなものを感じて、とても嬉しい気持ちになります♪ ○o..*ヾ(*′∀`*)ノ*..o○

テーマ : 鉄道
ジャンル : 趣味・実用

プロフィール

かずや(京ヤワ)

Author:かずや(京ヤワ)
河津屋京柔/かずや(京ヤワ)は、京都府下在住の東方好きなMacユーザーです。
昔は電車小僧。今は鉄道おじさん。多分この先も?
発達障害の一つ、ASD(自閉症スペクトラム)であることを知ったのは、40歳手前のことでした。
開き直るほどタフじゃないけど、生きるのが随分と楽になりました。
毎週日曜日にキリスト教会に通う程度には信心深いようです。
ちまちまとパソコンでお絵描きしたりしていますが、最近は寡作気味です。

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